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南アルプスの秘境で山の暮らしに触れる

2020年2月末をもって山梨県早川町にある「奈良田温泉 白根館」が宿泊業務を終了してしまうと聞いて、1月7日に白根館へと向かいました。


70歳を超えてもお元気な深沢守さん♡ 宿主の鑑だと私は思っています

ここは、その昔、奈良王様(孝謙天皇)が婦人病を快癒され8年間住まわれたという伝説が残っていたり、
実は武田信玄の忍びの里だったと伝わっていたり、地下にはフォッサマグナ(東日本と西日本を分ける中央地溝帯)の断層が走っていたり、歴史的にも地質学的にも非常に面白いエリアです。

神秘性を感じる一方で、最近はリニア中央新幹線の開通工事のために、宿に行くまでの道路をトラックがバンバン走っているし、治水工事の影響で早川の水量が減って風光明媚な景色とは言い難い状況もあります。
それでも、「日本一人口が少ない町」だからこそ守られている、山の暮らしぶりが垣間見える場所。宿で出される料理がレトルトパックな〜んてことはなくて、全て手づくり(当たり前だと思われるかもしれませんが、最近は田舎の旅館に行っても、実は冷凍物…な〜んてことも残念ながら増えているんですヨ)。料理のみならず、楊枝に至るまで手づくりなんです。

この宿が2020年3月からは立ち寄り入浴のみになるのは悲しいことですが、近い将来、宿泊が復活することも願いつつ⭐︎宿の魅力を記しておこうと思います。

その1 つるつる美肌湯


この日はあいにくの雨ですが、美湯は健在♡

やはり、このお湯に魅せられて訪れる人が多いでしょう。日によって色を変えるという「七不思議の湯」は、つるつるとする感触の美肌の湯。硫黄分と塩分の絶妙なバランスで、「杖を持ってきた人が杖を忘れて帰る」とか、「来るときには自分で歩けなかった人がスタスタと歩いて帰った」(館主談)なんて話がたくさんあるのですが、うちの夫も来るときは膝が痛かったそうなんですが、湯船の中で膝の皿をマッサージしているうちに、翌朝には膝の痛みがなくなっていたそうです。

その2 ジビエ


マタギであるご主人がとってきた鹿肉は保存がうまいから年中食べられます

館主の深沢守さんは、マタギです。一度、同行取材をさせてもらったことがありますが、4頭いる甲斐犬のうち2頭の甲斐犬を従えて、鉄砲を肩にかけ、山道をひょいひょいと歩く姿はとても70歳を超えている人とは思えません。


2018年12月、NIKKEIプラス1で取材させてもらいました

お尻につけたカモシカの毛皮は山座布団といって、山で休むときにお尻が冷えないようにするものだそうです。雪でもお尻が濡れない、マタギならではの独特の知恵ですね。
愛用の銃は、散弾銃の「20番」。普通は「12番」を使うそうですが、ひとまわり小さく、軽くて短いから取り回しが楽だとか。

猟のやり方はこんな感じ。
打ち手を置いておいて、犬をかけ、鹿や猪、熊などの獲物を追い詰めたところで仕留めます。これまでに何度も危ない目に遭ったそうです。
「賢い犬は、耳と匂いで音を聴き、後を追わずに先回りする」のだそうです。

狩猟時期は11月15日〜2月15日頃。猪と鹿は獣害指定されているから、3月15日まで認められているそうです。白根館ではこれを冷凍して一年中提供していました。

鹿しゃぶしゃぶ鍋など、夕食のメニューとして出されていましたが、今後は日帰りでも食べられるようになるんでしょうか?
「鹿や猪は臭くて硬い」というイメージがありましたが、血抜きなどの下処理がきちんとしていれば、冷凍物でも臭くないんですね。マタギの宿ならではのジビエ品質。
早川ジビエは、「短時間で処理した良質な肉」で「低カロリー」「高タンパク質」「高鉄分」というのが特徴。
タンパク質は牛肉の2倍、鉄分は牛肉の7倍もあって、ミネラル豊富、ヘルシーで栄養価が高いそうですよ

山ならではのお刺身は、こんにゃくと湯葉。


こんにゃくと湯葉が主役級

クリーミーな蕎麦がき、秋には舞茸やきのこ、なめこたっぷりのきのこ汁が楽しめました。山の中で育てたきのこは香りからして違います。

カリッカリのフワッフワ。絶品そばがき、また食べたい!

そのほか早川の食材には、エゴマ(七面山にエゴマを奉納していた雨畑農民が「荏」の文字をとって「荏本」という氏を与えられたそうです)、山ぶどう(普通のぶどうの9倍のポリフェノール、約6倍の鉄分を含んだ自生している山ぶどう)とフランスのカベルネソービニヨンを掛け合わせたオリジナルワイン、西山いんげん(食物繊維はごぼうの約2倍、サツマイモの3倍)などもあります。

 

その3 黒文字の楊枝

黒文字の楊枝
黒文字の楊枝

食後、歯を清潔に保つ楊枝。この宿では楊枝すら、市販のものを買わずに、コツコツ手づくりしています。「黒文字」は高級楊枝の材料として昔から知られていますが、皮に香りがあって、傷をつけると、ミントみたいないい香りがします。
館主の深沢守さんは、黒文字の幹が水分を吸っていない寒中にとってきて、猟に出られない雪の日に削るのが日課だそうです。
本来あるべき宿のおもてなしの姿を見た思いがしました。


黒文字を削る深沢さん。2018年12月NIKKEIプラス1にて取材。カメラマんは藤田修平さん

元々、奈良田では、弁当を持っていった山仕事で、黒文字の生木を切り、箸にしていたという習慣が残っていたそうです。
香りもよく、殺菌作用がある黒文字は、削れば何度も使えます。今流行のSDGs、持続可能な開発目標は昔の日本には当たり前のようにあったわけです。

その4 日本蜜蜂のはちみつ


売店で販売されている希少な蜂蜜

米も作れないし、雑穀しかできない。日本で最後まで焼畑があった奈良田の里。
道路が通ったのは昭和28年。それまで、取り残された集落だった、そんな場所です。

そんな場所だからこそ、採れるものの一つが、「山蜜」です。

年に何回も採蜜する西洋蜜蜂とは違って、日本固有の日本ミツバチの蜜は、年に一回しか採れないから、蜜が熟成して濃いのが特徴。
濃厚な甘さとさまざまな花の香りがする山蜜自体が希少品ですが、
その中でも標高が高い奈良田でとれた蜂蜜は高級品と言われています!


移住してきた人が開発して販売しているみつろうのリップクリームもお土産に

その5 雨畑硯


雨畑硯が展示されています

帰りに立ち寄ったのは、宿からは車で約1時間の距離にある雨畑(あめはた)地区。ここは、天下の銘硯「雨畑硯」の原石の採掘場所で、地元ではあんばたといっているそうです。

訪ねたのは、「硯匠庵(けんしょうあん)」。
黒い輝きを放つ逸品名硯を展示しているほか、地元の名工が彫った硯や和紙、墨、筆などを販売しています。

雨畑石は緻密な粘板岩で、色は蒼黒。石の目は紙を重ね合わせたように細かく、石の中の鋒鋩(ほうぼう)の細かさと配列が硯に適しているそうです。
口伝によると、永仁5(1279)年、日朗上人が、雨畑の河原で蒼黒い石を拾い彫らせたのが始まりと言われています。

そして、最近、この蒼黒い石はパワーストーンのブラックシリカだったことが判明♡
ワオ。お習字をしない私でも、硯が一気に身近なものに感じられました。


ブラックシリカのブレスレット

遠赤外線の影響で、体にもよい効果があるとかで、硯のみならず、入浴用の石やブレスレットなどでも販売されていました。ブレスレットと浴用の石は早速土産として、購入。家で使っています♡


浴用にも販売